遊水俳句2-1

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遊水俳句2-1
 
八十句
 
まえがき
 
 
 以前「遊水俳句1」として二千八百句から五十句を選んだ。今回、三千百三十句からこの五十句を除き、気に入った句を選ぶと百五十余りあった。少し多い。並べ替え少し削った。
 句や歌はコンピュータでデータベース化し、ある時期から日付も入力しているが、句だけ見るといつの作か分からない。
 夏の句は夏という季節としてあり、蝉の声を聞いていると、記憶は昔のことも今のことも入り混じり、しかも並んでいるのではなく重なっている。夏ばかりでなく他の季節も同じであり、何か重苦しい。
 
    鳴く鳥の姿さがして冬木立
 
これは好きな句のひとつで、双眼鏡を片手に幾人かと半日林の中を歩いた時の作だ。句から鳥や木の種類も場所も特定できないが、個人的には記録である
 
 
猪のぬた場を過ぎてこぶしかな
 
鴬の声に一息山路かな
 
後手に目を閉じにけり梅の花
 
この街にためらいがちの春来たる
 
沈丁花猫が三匹発狂す
 
もういいと電話切られて沈丁花
 
今頃は満開じゃろう桃の花
 
東から琵琶湖の春を渡りけり
 
途中下車ぶらりと花の堤かな
 
山桜そこには誰もいないのに
 
春の宵、仮面で遊ぶ浮世かな
 
気にしない下手も句のうち春うらら
 
スイトピー見つめるあなたいるような
 
父と行く矢車草の散歩道
 
新緑や道行く人の話声
 
遠くから目印にして桐の花
 
燕の巣、大阪・京橋南口
 
小娘の膝を羨む暑さかな
 
タイミングつかめぬままに祭りの夜
 
人妻は日傘で隠す胸の内
 
題名が思い出せずにラベンダー
 
八月の初めの青きざくろかな
 
樟の木の緑わきたつ蝉の声
 
陽が昇り緑の羽根の乾くまで
 
黒板に青のチョークの夏の空
 
ミチシルベ先へ先へと田舎道
 
炎天の砂あびにくる雀かな
 
大阪は只今三十八度五分
 
冥土への土産に花火揚げてくれ
 
邯鄲の夢の枕や大あくび
 
屋上で花火揚げましょキスしましょ
 
夕焼けにカンナ揺さぶる女かな
 
夕立に入り来る土の匂いかな
 
いい風が吹いてその夏終りけり
 
流木を九月の海に投げ返す
 
大空の羊の群れを仰ぎ見て
 
海がある波が聞こえる貝の中
 
金閣寺金木犀に匂いたつ
 
照柿や故郷を遠く離れたる
 
ぼくの手にどんぐり幾ついくつある
 
秋の風ゆうらりゆらりおっととっとと
 
立つ霧の霧の向こうの楓かな
 
三人の少女の一人泣いた秋
 
秋霖や猫が鳴く声ふしあわせ
 
見つめれば見つめ返して秋の猫
 
秋風や君は時計に目を落し
 
婆さんとすれちがう道彼岸花
 
秋の山おいでおいでと言うように
 
秋の雨、電子メールのなき日かな
 
銀杏散るあれもこれらもやり残し
 
散髪の鋏の音の小春かな
 
性急に糞をひり出す寒さかな
 
風邪なんだ、おでこくっつけ甘えけり
 
動物園、春が来るまで閉まります
 
夜起きてりんご静かに香るかな
 
文机の木目に冬の日差しかな
 
冬の日のガラス細工に溜るかな
 
底冷えにあぐらかきたる椅子の上
 
大根に干した小海老を煮込むかな
 
火を焚いて言葉少なく友とあり
 
四畳半めっきり寒くなりにけり
 
まあ上がれ茶でも飲めやと炬燵かな
 
寄せ鍋や浮いた話もひとつあり
 
人の世や酔うてごろりと冬畳
 
木枯らしや灯台海を照らすかな
 
鳴く鳥の姿さがして冬木立
 
あの時のボートも今日は裏返し
 
鉛筆で冬の木立を濃く描いて
 
冬の雨いちょうの幹を濡らすかな
 
朝早く過ぎ行く貨車の屋根に雪
 
山茶花の固き蕾をほぐすかな
 
かな書きの石文を打つ霰かな
 
ガラス戸のくもりて外の雪激し
 
吹雪く夜はみかんの筋を取りながら
 
下宿まで街灯辿る雪の道
 
雪降れば雪降る国の遊びかな
 
耳元で散弾振って込めにけり
 
水仙の夜は一層匂うかな
 
ばあさんや春来たりなばなんとしょう
 
ともかくも夜が明けたら雑煮かな