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遊水俳句1
まえがき
遊水俳句二千八百句中三百句を選び、更にその中から五十句を選んだ。こうすると見にくかった遊水俳句の世界がよく見える。
五十という数は少ないようだが、繰り返し読んでも苦にならない量であり、自然に全てを暗記してしまう程度だ。俳句以外でも同様だろうが、そのすべてを知る必要はない。
選は選者の俳句観の表われであり、別の選も当然あり得る。それにより違った側面を見出すことも出来る。同じ像でも光の当て方により異なって見えるようなものだ。どう光を当てるかは選する側で決めることだ。
五十で不足なら百にするのでなく、別の五十を選べばよい。
さて、俳句は一句ヒネルなどという。ここに選んだ句にはそのようないわゆる俳味はほとんどない。平易な言葉そのままの句ばかりだ。
歴史的に俳諧から俳句に変わった時、人は「諧」を捨てた。今ここに遊水俳句を見るに、俳句には「俳」も必要でないことに気付く。俳句には俳味が必要だとするならば遊水俳句はいわゆる俳句とは別の世界なのかもしれないし、そうであってもかまわない。
遊水俳句から「俳句」をとって単に「遊水」と呼んでいい。これが選後の感想であり、五十句選の俳句観である。
みずぎわの だぶりだぶりと はるのうみ
ふんわりと たわんでゆれて ゆきやなぎ
かむことも あいのひとつや かすみそう
なんとなく そんなもんだよ はるのかぜ
さみしくて さくらふぶきの なかにたつ
きりのはな みあげるころに なりにけり
しろきすな ひとつぶおとす ありじごく
しらゆりの しっとにくるうた においかな
はつぜみの ふっとどこかに ゆきにけり
かわすじの ひかりてなつと なりにけり
いえなみも そろいてしょうぶ さきにけり
たびにでて むぎわらぼうし かいにけり
アングルは きまりましたか なつのてら
こもれびや いわなみしんしょ かおにのせ
ぽっぺんを ふいたるおとや ゆめまくら
ようねたと おもえどほんの ひるねかな
あさがおや ハイとはぶらし わたされて
おりがみの ふっとふくらむ ききょうかな
ことりきて コーヒーいれる ひとのへや
あおりんご あなたはたえず といかける
たおれても コスモスのはな さきにけり
いちょうのは ちりはじめれば どっとちる
あきのねこ すましてあるく ケツのあな
あきのやま なんぞがついて くるような
ひとりぬけ ひとりぬけして あきのくれ
ふゆこだち おみやげみっつ たこみっつ
うれしさに はくさいさくさく さくさくと
てぶくろを ぬいでりょうてに ゆのみかな
しものよの とおいとおおい でんわかな
ゆきしまる そのかんしょくを あゆみゆく
あとがき
一句一句は全く個別に作られたものだが、入れ替え並べ替えして、順序付けてゆくうちに互いに作用する関係ができてくるように思える。五十句の世界が出来る。それが句集というもので、楽しい作業だった。
句が作られた順や、作者の意識や興味の似通った句を集めるといった並べ方もあるだろうが、おおよそ、句のもつ季節の順に並べた。時の流れができる自然で無理のない並べ方のひとつだ。
並べ替えてひとつの世界を作る作業は、限られた句であるだけに、何度かコンピュータから打ち出して眺めていると、また変えてみたくなるが、そのあたりがなかなかおもしろい。並べ終わると、更にもうひとつの、五十句の選をやってみたくなる。
選ぶ作業と並べ替える作業は切り離して行った。春と冬が少なくて夏と秋の句が多いことに気付く。「かな」や「けり」も多い。全体としてはどうだろう。調べてみたくなった。
まとめ
□ 書き初めや肩の力を抜きなはれ
□ 水際のだぶりだぶりと春の海
◎ ふんわりと撓んで揺れて雪柳
□ 咬むことも愛のひとつやかすみそう
□ なんとなくそんなもんだよ春の風
□ 花咲いて町が明るくなりにけり
□ ふりむけば音無く桜散っている
◎ さみしくて桜吹雪の中に立つ
□ 友といて、ただ黙すべし花吹雪
□ 桐の花見上げる頃になりにけり
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□ ある朝の目覚めに夏の光りかな
◎ 白き砂一粒落す蟻地獄
□ この香りくちなしの花白き花
□ 好きなのさそうなのかしらさるすべり
□ キスをしてドクダミの花匂うかな
□ 白百合の嫉妬に狂うた匂いかな
◎ 初蝉のふっとどこかに行きにけり
◎ 川筋の光りて夏となりにけり
□ 家並みも揃いて菖蒲咲きにけり
□ 旅に出てむぎわら帽子買いにけり
■
□ アングルは決まりましたか夏の寺
□ ひまわりや友をなくしてしまいけり
□ ケンちゃんやさっちゃんのこと蝉時雨
◎ 木漏れ日や岩波新書顔にのせ
□ ぽっぺんを吹いたる音や夢枕
◎ ようねたと思えどほんの昼寝かな
□ 朝顔やハイと歯ブラシわたされて
□ ベランダの朝顔みんな向こう向き
□ ある朝に秋の気配を感じたり
◎ 折り紙のふっとふくらむ桔梗かな
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◎ 小鳥来てコーヒーいれるひとの部屋
◎ 青りんごあなたは絶えず問いかける
□ 一房の葡萄がありて想うかな
□ 倒れてもコスモスの花咲きにけり
□ 遠くから寺のいちょうを眺めけり
□ いちょうの葉散り始めればどっと散る
□ 狭庭にも色なす秋の景色かな
□ 秋の猫すまして歩くケツの穴
□ 秋の山なんぞがついて来るような
□ 天高し死んでもいいと思う程
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□ ひとりぬけひとりぬけして秋の暮
□ 冬木立おみやげみっつたこみっつ
□ うれしさに白菜さくさくさくさくと
□ 手袋を脱いで両手に湯呑みかな
□ 霜の夜の遠いとおおい電話かな
□ こやみなく雪は降りけり積もりけり
□ 十一時、雪本降りとなりにけり
□ 雪しまるその感触を歩み行く
□ 夜の底、白一色の大地かな
□ とうとうと雪の大地を流れ行く
◎印 遊水俳句 妻十選 2000-08
五十句を見直し三十句とした。あと五句ほど削ってもよいかと思う。