■ 90段に、次のような和歌のやり取りがあったけれど、状況が分からなければ、和歌だけでは分かりにくいように思った。
あしひきの山井の水はこおれるをいかなるひものとくるなるらむ
■ 清少納言が助太刀して、
うわごおりあわにむすべるひもなればかざす日かげにゆるぶばかりを
■ ひも
氷面紐
■ とける、ゆるぶ
氷が解ける結んだ紐が解ける
■ 舞姫は12才で、まだ大人の恋をするには幼かった、と補わなければ理屈に合わないように思う。
■ というのも、
小兵衛といふが、赤紐のとけたるを、「これ結ばばや」といへば。実方の中将よりてつくろふに、ただならず、「あしひきの山井の水はこおれるを・・・」といひかく。年わかき人の、さる懸想のほどはいひにくきにや、返しもせず。
■ ここで、小兵衛といふ女房が「年わかき人」ではないような感じだ。小兵衛が気がついて言ったのだろう。
■ 「山井の水」には、若い、という意味をもたせている。
■ 大庭みな子は、
あなたはまだお若すぎてその心は男の気持ちなどおわかりにならず、まだこおっている山の井のようですのに、どうしてまた、ひも(氷面)がとけたんでしょうね、となぞをかけたのだ。小兵衛はまだ年若いひとで人前でそんなことをいわれて、はずかしいので返歌もしなかった。
■ と、あるが、この小兵衛の女房は87段にも出て来る人で、それほど若くはないように思う。自分のひもが解けたのに気付いたら自分で直すだろう。中将の位にある実方に、女房の身分である自分の紐を結ばせるはずがない。
■ ゆるく結んでいたので解けただけで男相手に解いたわけじゃないのです、と清少納言は代わりに歌に詠んだのだが、どもり癖の人を介してだったのでうまく伝わらなかった。
■ ところで、Pillow Book を見れば、・・・
'A wintry indifferencefreezes the well's blue watersto a knot of ice.How might I melt the cordand loosen its ice knot?'
■ なんか分からん。
氷が張ることを「結ぶ」と呼ぶ
■ 掛詞が理解できなくても、 意味を感じ取れないのか。
■ ついでながら
- 袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ 紀貫之
■ 袖を濡らして掬った水が凍ったのを 立春の今日の風が解かすだろう。
「むすびし水」は「凍った水」なのに「凍れるを」とするのは多少うるさい。
山をよむ斧の響きを尋ぬればいはひの杖の音にでありける
あしひきの山井の水はこはれるをいかなるひものとくるなるらむ夜をこめて鳥のそらねははかるとも世に逢坂の関はゆるさじ
うはごおりあはにむすべるひもなればかざす日かげにゆるぶばかりを
逢坂は人超えやすき関なれば鳥鳴かぬにもあけて待つとか
いかにしていかに知らまし偽りを空似ただすの神なかりせば
うすさ濃さそれにもよらぬはなわゆゑにうき身のほどを見るぞわびしき
みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける
山ちかき入相の鐘の声ごとに恋ふる心の数は知るらむ
さかしらに柳の眉のひろごりて春のおもてを伏する宿かな
いかにして過ぎにしかたを過ぐしけむくらしわづらふ昨日今日かな
雲の上もくららしかねける春の日を所がらともながめつるかな
薪こることは昨日に尽きにしをいざ斧の柄はここに朽たさむ
誓へ君遠江の神かけてむげに浜名のはし見ざりまや
あふさかは胸のみつねに走り井の見つくる人やあらむと思へば
思ひだにかからぬ山のさせも草誰かいぶきのさとはつげしぞ